2006年8月19日、プレミアシップ06-07シーズンの幕が開けた。今年はW杯後のシーズンにあり、移籍に関する話題にも事欠かず、W杯戦士を中心に欧州の移籍市場は活発な動きを見せていた。
W杯中も動向が注目されていたサッカー界最悪最大の不祥事に対する処罰、とりわけユベントスの降格処分によってイタリアからも優れた選手が国内外に大量流出したことは記憶に新しい。
また、例によってアブラモビッチの資金力により、ブルースに加入してきたシェフチェンコやバラックの移籍の動向にも注目が集まった。更には各国リーグが開幕した今もなお、ロナウド、カカ、ロビーニョ、アドリアーノといったブラジルタレントの名前がレアル・マドリーと共に紙面を飾っている。
そんな状況にありながら、アーセナルに限ってはこれまでチェコ代表ロシツキーの補強以外は行わなかった。移籍市場が締まる8月31日を待っても大きな動きはなさそうである。
しかし、残念ながら今年もガナーズにとっては辛い別れがあったことは言及しなければならない。
11年に亘って卓越したテクニックを魅せ続けてきてくれた「アーセナルレジェンド」 元オランダ代表デニス・ベルカンプが新スタジアム・エミレーツのこけら落としで現役引退を飾った。
彼の飛行機嫌いは余りにも有名で、ヨハン・クライフのニックネームである「FlyingDutchman(空飛ぶオランダ人)」をもじり「Non-flying Dutchman(飛べないオランダ人)」とまで言われていたことには同情を感じるが、実際に遠隔地への遠征には陸路でしか参加できないため、欧州カップ戦の多くではホームスタジアムでしか彼の姿を見ることはできなかった。更に2000年、惜しまれて代表を引退したのは、2002年W杯が船で行くには遠すぎるアジアで開催されたからだとも言われる。
プレーヤとしてそのようなマイナス面を持ちながらも、監督からは信頼され、ファンからも愛されたのは、彼の魅力的なプレーを皆が待ち望んでいたからに他ならない。
そして、元フランス代表ロベール・ピレス。ショートパスの権化でありながら、高いキープ力を持つ巧みなドリブルと、得点感覚に優れたサイドアタッカーとして君臨し、アンリの幾多の得点をも演出した彼もまたチームを去った。
マンUとアーセナル共に双璧の時代を作り上げた選手の一人であり、傑出したセンスの持ち主は新天地スペインへ渡った。ビジャ・レアルでの彼のプレーも楽しみであったが、開幕前の親善試合で左膝前十字靭帯断裂により全治6カ月の負傷を負った。治療に専念し、はやくそのプレーを見せて欲しいと願うばかりだ。
こうして少し前までアーセナルの一員として絶対的な存在感を見せていた彼らは、1世紀近い歴史を持つハイバリースタジアムと共にガナーズへ別れを告げたのである。
どのチームもそうであるように、数年前のアーセナルとは選手の顔ぶれも大きく変わっている。一昨年、現フランス代表キャプテンのパトリック・ビエイラをはじめとし、ヴィルトール、キーオン、エドゥーが去り、今シーズンはベルカンプ、ピレス、ソル・キャンベルといった、03-04シーズンに115年ぶりとなる無敗優勝記録を達成した戦士達が続々とチームを去っている。
近年のアーセナルは、流れるようなショートパスを連続させる戦い方こそ最強時代のそれを踏襲しようとしているが、そこには以前のような優雅で溜息が漏れるほど正確無比な攻撃パターンやスピードは観られなくなった。
昨シーズンは、チャンピオンズ・リーグ決勝まで駒を進め、王者バルセロナを相手にクオリティの高い試合を演じたものの、リーグでは振るわなかった。最終戦でなんとか4位を確定させ、次シーズンのCLリーグ出場権を手に入れてはみたが、数年前まで試合の度に見せていた横綱相撲のような戦いには程遠いことは、ガナーズサポであれば一目瞭然だろう。
しかし、だからといって悲観的になる必要は全くない。むしろ未来への希望は大きいと言えよう。そもそも近年、ガナーズの高齢化が心配されていたのは事実であり、今年で就任10年目を迎える知将ベンゲルは、アーセナルの将来さえも見据えていたに違いなく、ここにきて若手の台頭が極めて著しい状況だ。
特にスペイン代表の将来を担うかもしれないセスク・ファブリガス、同じく17歳でイングランド代表に招集されたウォルコット、無尽蔵に走り続けるベラルーシ代表フレブ、粗さは感じられるが素質十分のコートジボワール代表エマニュエル・エブエなど、既にスタメンに名を連ねる若手が続々と現れている。
そもそも、多くの若手が起用された背景にあったのは、ベンゲルのチーム再生構想のシナリオとは全く異なるものだった。
昨シーズンのアーセナルは、尽く怪我人が続出し、苦肉の策として若手を用いざるを得なかったという経緯がある。リーグこそ不調に終わったものの、CLで決勝まで進んだのもアンリやレーマンといったカリスマが巧く若手を鼓舞し、彼らがこれに応えていった賜物であると言えるだろう。
負傷者に苦しみながらも、同時に若手が急激な成長を見せた結果として現在のアーセナルの姿がある。
多くの兵たちが去った今、新星アーセナルが再びプレミアシップの雄として一時代を築いてくれるのは、そう遠くない未来のことだと楽観視できる理由がそこにはある。