ルート・フリットというビッグネームが現役最盛期の頃、海外フットボールは日本において今ほどポピュラーではなかったけれども、その驚異的な運動能力と独特の風貌が人気を博し、日本企業のTVCMに起用されていた。レゲエミュージシャンとしての顔も持っていた彼は、フットボールプレーヤーとしては極めて異質のエンターテナーであったと言える。
さておき、そのオランダ人のことを日本では通常「フリット」と呼んでいたのだが、いつの間にか国内のフットボール関連誌を中心に「グーリット」へ表記統一されていった。
小中学生の間でさえ、どちらの呼称が正しいかといった論戦が繰り広げられていたものと記憶する。私自身も始めは不思議に感じたものの、それらの表記の似通い方から発音上の理由によるものであることは、子供ながらに何となく解釈することができた。
「グーリット」のスペルは「Gullit」となる。オランダ語で「Gu」の発音は日本語で正確な表記ができず、敢えて、仕方なく、どうしても日本語で表記するのであれば、「フ」が近くなるらしい。従ってオランダ語を話せない日本人だけ(殆どがそうなのだが)によって「フリット」と発音されるようになった。
そして日本で「フリット」と呼ばれているのを知ったグーリット本人がこれを嫌がり、ラテン語系言語の読みに基づいて「グーリット」と発音するように希望したと言われている。
似たような例は余りにも多い。そもそも外来語の多くは日本語で言いやすいように発音が変えられ「日本語化」されている。日本語化された外来語を英語圏でも通じる言葉だと勘違いしてネイティブに伝えても、「はぁ?」と言われるのは当然だ。
逆のパターンも当然多い。輸出された日本語である「スキヤキ」、「カラオケ」、「テンプラ」などがいい例である。もしも外国人と会話することに慣れていなければ、これらの言葉を聞いて、「はぁ?」と思ってしまうだろう。「カラオケ」に至っては、日本語では平坦だったアクセントも様変わりし、終には原形から大きく乖離して「キャラオッキー」に近い発音になってしまっている。
このように普段使用している言葉が捻じ曲げられて呼ばれているのを聞くと、たとえ自分の名前でなくとも何だか違和感があるものだ。
現にグーリット本人は、「フリット」という発音から「フリッター」(フィッシュ・アンド・チップスやドーナツのように油で揚げたお菓子)を連想したという。
話をフットボールに戻そう。
グーリットの例えのように、チーム名や選手名をどちらで呼ぶべきか迷うことは多い。最近は特に、外国の人名や地名等の固有名詞はその国の発音で表記、つまり発音しようという傾向になりはじめたことで複数の呼び名が混在している。
ブラジル人選手の「ロナウド」や「ロナウジーニョ」、「ロビーニョ」、「リバウド」のことをそれぞれ「ホナウド」、「ホナウジーニョ」、「ホビーニョ」、「ヒバウド」 と聞くことが多くなったのはこのためである。
これは、ブラジルで話されているポルトガル語でRONALDOの「R」の発音は英語の「H」と同じ、つまり「ホ」と発音することに起因する。
因みに英語発音の「ロバート(ROBERT)」は、イタリアでは「ロベルト」、ブラジルでは「ホベルト」、フランスでは「ロベール」になるのも、なかなかおもしろい。
では、いずれの呼称が正しいのだろうか?それは、もちろん「通じればどっちでもいい」のである。ブラジル人選手達は、「ホナウド」が国によっては「ロナウド」と呼ばれることを知っている。大切なのは、人に言いたいことが通じるかどうかだけだ。
以前、ハイバリースタジアム周辺のパブでタトゥーだらけのウェールズ人に「UEFA CUP」を「ウエファ・カップ」と言って「はぁ?」と反応されたことがある。もちろん通じない。「U」は「ウ」ではなく「ユー」が正しい英語発音である。同様に、英語では「ウクライナ(Ukraine)」では通じないから、「ユークレイン」と発音する。
こういうことを失敗と引き換えに発見するのも、とても楽しいと感じることができる。
もちろん、これらを日本人相手に発音してしまったら通じないので、伝える相手に応じて発音や言い回し方を変えるのは重要なことである。言葉を楽しみながら使い分けることで、人とのコミュニケーションを良好なものにすることができる。
選手名やチーム名はじめ、フットボールに関連する言葉を中心に楽しく学べば、語学が格段に上達する!かもしれない。